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診療への想い
※院長が母校の会報宛てに以前投稿した原稿を、一部改変してご紹介いたします。
Norman Rockwellの教え 飯尾 純
Norman Rockwellというイラストレーターのことをご存じでしょうか?
1894年に生まれ1978年に亡くなったアメリカ合衆国の画家で、Saturday Evening Postという雑誌の表紙の絵を長きにわたり描いた有名人です。その作品はユーモラスで力作ぞろいでメッセージ性に富んでいると評価され、今でも幅広い人気を持ち支持されています。
私のクリニックの待合室には、彼の描いた絵が1枚額に入れて飾ってあります。その絵には、6~7歳の小学生ぐらいに見える女の子が、上半身を裸にした赤ちゃんの人形を背中から大事そうに抱くようにして高く掲げて、かっぷくの良い60~70歳くらいの白髪のお医者さんの目の前に差し出している場面が描かれています。お人形さんの正面にいるお医者さんは椅子に座って、どれどれと聴診器を人形の胸に当てて聴き入っています。当然、呼吸音も心音も何も聞こえないのでしょうが、その先生は両方の眼を右上方に持ち上げ(おそらく女の子にどのような言葉をかけてあげようかと)考えています。
その絵は昔、私が小さな雑貨屋の奥の方の壁に何気なく飾ってあったのに巡り合い、とても気に入ったのでその場で購入したものです。開業した今、待合室に飾っているこの絵をあらためて見直すと、患者さまの求めるニーズに真剣に取り組んであげようとする、医師としての熱い気持ちを端的に表現しているように思います。さらに、患者さまはこういう気持ちを持ったお医者さんを望んでいるのですよと、Norman Rockwellが私にメッセージを送ってくれているように感じています。
一方、私が医学を学んだ東京慈恵会医科大学には『病気を診ずして病人を診よ』という学祖・高木兼寛先生の言葉があります。学生時代には事あるごとにこの言葉を何度もくりかえし講話で聞かされて、「またこの話か?」とあまり深く気にも留めなかったように思い出しますが、若い頭脳で何度も何度も繰り返し聞いた言葉は心の奥底に深く根を張って染み込んでおります。さまざまな臨床経験を積んでゆくと、この言葉の持つ奥の深さにあらためて気付かされるようになり、今ではこの言葉は医師として目の前の患者さまに接する時の心構えの基本にあるスピリッツ・心意気を意味するものだとさえ感じています。
さて、開業をして毎日患者さまに接していると、時折Norman Rockwellの絵のような悩みを投げかけてくる患者さまにしばしば出くわすことがあります。さすがに人形の相談に来るわけではありませんが、医師にとっては取るに足らないことでも患者さまご本人にとっては深刻な問題かもしれません。患者さまが混んでいて忙しい時には少し負担に感じることもありますが、そのような時にもNorman Rockwellの絵と学祖高木兼寛先生の言葉が私の心によみがえり、一息ついてから患者さまに向きなおすように心がけています。
良い絵と良い言葉にめぐりあうことができましたこと、東京慈恵会医科大学で学べたことに、心からありがとうと感謝しています。